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俺はどうしてこんなことを訊いたんだろうと考えた頃には、全てが先輩に伝わってしまっていた。
ただ単に気になったからなのか、それとも不安だったのか……。
「……当たり前だよ。私は、レイだけを見てるよ」
その言葉が俺の耳に届いたのと、汗の一滴が輪郭を伝ってアスファルトに染みていったのは同じタイミングだった。
一瞬暑さが消えたかと思うと、次の瞬間にはドッと身体に熱が吹き込まれる。
先輩は、綺麗に笑っていた。
本当に、本当に先輩の笑顔はいつだって俺を魅了する。
多分、俺の中にはもう既に、先輩の笑顔でしか機能しない感情が存在してしまっているんだろう。
名付けようの無いこの狂おしいくらいの気持ち。
胸は高鳴り、つられて笑ってしまい、何よりも俺を照らしてくれていた。
「ねえ、レイも……その……」
一呼吸置き、先輩は息を吸って続けた。
「私だけ、見ててくれる……?」
熱を帯びているその瞳が目に飛び込んだ時、鼓動がさらに早まった。
「当たり前です。俺には、先輩だけしか見えないですよ」
……俺は、何をこっ恥ずかしいことを堂々と口にしているんだろう。
わかっていても、言わずにはいられない。
――だって、言葉で伝えられないこともたくさんあるけれど、言葉でしか伝わらないことだってあるはずだから。
「ん……。ありがとう、レイ」
先輩の呼ぶ俺の名前の響きが、今はとてつもなく甘いものに感じられた。
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