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担任の退屈な話をあくびを噛み殺しながら聞いていると、不意にポケットの携帯が振動し始める。
こっそり携帯を取り出し確認するとメールが一通届いていて、差出人は大引先輩だった。
まだホームルームの最中のはずなのに、と思いながらメールを開いてみる。
内容は『夏芽が図書室で待ってるわよ』というものだった。どうやらむこうはホームルームが終わったらしい。
そう考えると、いい加減うちの担任の話が長く思えてきて、俺は口の中で小さく舌打ちをしてしまう。
図書室で、先輩が待っている。その光景を想像してしまうと、今すぐに教室を出ていって図書室まで走りだしたくなる。
そう思っていても実行に移せない自分が、少し情けなかった。
お預けをくらっている犬は、いつだってこんな心境なんだろう。
食事が目の前にあるのにそれに飛び付けないのは、すぐにでも会えるというのに動くことのできない、今のこのもどかしさととても似ている気がした。
机に肘を突きながら、俺はぼんやり先輩に会うことだけを考えていた。
夏休みの間に取り付けられたカーテンを手で小さく捲り、窓の外を覗く。九月の初日の今日も、太陽は夏と変わらない輝きを放っている。
それに無意識に先輩を重ねてしまうと、俺はいよいよ本当に先輩に会いたくなってしまった。
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