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「すみません。待たせちゃいました」
「ううん。私のクラスが早く終わっただけだから」
立ち上がった先輩がそう言って笑うと、冷えていきつつあった体温がまた上昇してしまう。
「あれ? レイ、汗かいてるよ」
先輩がカバンから黄色いハンカチを取り出して俺の頬を優しく拭ってくれる。
先輩の綺麗な顔が数十センチほどの距離に迫っていて、俺は我慢できずに先輩の背中に手を回した。
「ひゃ! レ、レイ!?」
先輩の身体がピクッと小さく震え、可愛らしい悲鳴が聞こえると、頬のハンカチが離れてしまう。
「だ、ダメだよ。誰か来ちゃうよぉ……」
あたふたと慌てている先輩の消え入りそうな声は羞恥にまみれていて、俺の興奮をさらに掻き立ててしまう。
「少しだけ、こうしていたいです。どうしてもダメなら、離れますけど……」
「……もう」
呆れたような声が聞こえたかと思うと、フッと背中に温かいものが触れた。
「ちょっとだけ、だからね……?」
身を委ねてきた先輩の心音が、まるで自分のもののように感じられる。
高く弾んでいる鼓動から、先輩がいかに緊張しているかがわかった。
こんなにも心が張りつめているのに、先輩は俺に応えてくれている。
その事実が何よりも嬉しくて、俺は先輩をさらに強く抱き締めてしまう。
結局、先輩が恥ずかしさに耐えきれなくなり顔を真っ赤にして俺から離れるまでの間、俺はずっと先輩を感じていた。
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