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先生に咎められないよう、適当にノートをとって、後は開襟シャツの首もとをパタパタしているうちに救いの鐘が鳴る。おそらく、今一番解放感を味わっているのは俺だ。
ショートホームルームでのオッサンの短い話が終わると、すぐに解散となった。スポーツバッグを担いですぐに教室から出ていく野球部のクラスメイトに続いて、俺もカバンを手にして灼熱地獄から逃れるように教室を後にした。
半ば早足の俺が向かう先は、校門ではなく、図書室。
そこでは、ガンガンにきいたクーラーと、"先輩"が俺を待っている。
三年の校舎の近くにある別館に、二階にある図書室をはじめとした多くの特別教室が収容されている。教室から普通に歩くと五分、早足で歩いても二、三分はかかってしまう。ようやく図書室の引き戸を開ける頃には、すでに汗だくの状態だった。
図書室へ一歩足を踏み入れると、そこは別世界のように感じられた。外の蒸し暑い気温とは対をなす、冷房のきいた快適な空間は、俺の望んでいた空間そのものだ。
汗が自然に引いていくのを、肌で感じる。引き戸を後ろ手に静かに閉め、俺は先に待っているであろう"先輩"を探す。少し進み、視線を右にやると……。
――そこに長い黒髪の、あまりに人目を惹き付ける美人がいた。
「レイ~! こっちこっち」
何やら文庫本を読み耽っていたその人は、俺が声をかける前に本から顔を上げて、小さく手を振る。
受付のおばちゃん以外は誰もいない図書室に、三年の沢村夏芽先輩のよく通る声が響いた。
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