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とても強い風が吹く晩だった。
台風の如く突風が吹き荒れ、草木だけでなく、あらゆる物を激しく揺らす。
町のあちらこちらで店の看板が軋みながら音を鳴らしていた。
古い建物は、柱ごと揺れている。まさに眠れぬ晩が始まろうとしていた。
本来ならば、帰宅途中のサラリーマンたちで賑わっているはずの繁華街も、今晩ばかりは人気が少ない。
多くの飲み屋が、いつもよりも早い時間帯に、店の暖簾を片付け閉店していく。
そして閉めた店先のシャッターが、嵐に煽られ新たな騒音をけたたましく奏でていた。
更に時間は進み、草木も眠る丑三つ時。
しかし風が吹き荒れ草木を揺らし、眠りを妨げ続ける。嵐は、今夜一晩は続きそうだった。
そこは何処だろうか――。
昔ながらの小さな居酒屋、古い構えのスナックが並ぶ路地裏の飲み屋通り。
吹き荒れる強風が、店先に置かれた植木を揺らしていた。
そのような激しい風が吹き流れる路地を、三つの人影が楽しそうに踊りながら歩いていた。
踊る三つの影は、騒がしく歌い、両手を上げながら賑やかに踊っている。楽しそうな歌声が、荒れる風に混ざって賑わいを増す。
三つの影たちが、幾ら騒いでも咎める者はひとりもいない。
三つの影が叫ぶ言葉は、獣の鳴き声。
三つの影が躍る姿は、獣の姿。
その姿は、人であらず。
「アニキ~、風が気持ちいいね~」
「そうだな~」
声と共に風が鋭く吹き荒れる。三つの影が踊る側にあった植木が切り裂かれ、バサリと枝を落とす。そして突風に巻かれて飛んで行く。
「おにぃ~ちゃん、踊りって楽しいね~」
「おうよ、楽しいぞー、もっと踊れ、弟たちよ!」
声と共に再び激しく吹き荒れる風。今度は近くにあった居酒屋の看板が、バッサリと切り落とされた。
植木も看板も、まるで鋭利な刃物で切られたような綺麗な切り口を見せている。
吹き荒れる風が、まるで真空の刃物と化していた。
「踊れ! 騒げ! 歌ってしまえ! 今日は俺たち鎌鼬三兄弟のナイトステージだっぜー!」
そう、三つの影は、二足歩行で踊り暴れるイタチの姿。鋭い牙と瞳を光らせ、ベストと短パンを身につけている。
身長も百七十センチはあるだろうか、あり得ないサイズだった。
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