2093人が本棚に入れています
本棚に追加
三匹の鼬たちは、吹き荒れる風を操り、目につくものを真空の刃で切り裂きながら、その感触を楽しみ、はしゃぎ、踊っていた。
「随分と楽しそうだな、鎌鼬――」
突如、獣三兄弟の眼前に現れたのは、人の姿がふたつ。
背の高い男と、背の低い少女だった。
三匹の獣を鎌鼬と呼んだ。
男は真っ黒なロングコートに、同じく真っ黒なテンガロンハットを被っている。
少女は赤い袴で、巫女のような姿であった。
二人とも髪が長い。
黒い男の髪は、灰色の針金を思わせる硬そうな直毛である。
巫女姿の少女は、艶のある美しい長髪だった。
二色の髪が強風に靡く。
「んん? 何だ貴様ら!?」
踊りを止めた三匹の獣が、突如眼前に現れた二人に睨みをきかせ威嚇を現す。
野生の本能が、黒ずくめの男を見て敵と悟る。
鼻に危険な香りが届いていた。
刹那、吹き荒れていた嵐がピタリと止んだ。
静けさが辺りに広がる。まるで時間が静止したかのようだ。
三匹と二人が向かい合う。軋轢が生まれる。
「あら、辺りに結界を施したのね」
少女が周りの景色を見回しながら呟いた。
風で乱れた黒髪を、細く綺麗な指で撫でながら整え直す。
「ああ、案外と見事な出来だ」
男が少女に相槌を打つ※。テンガロンハットと灰色の長い髪の隙間から見える顔が、怪しく微笑む。
「テメーら、人間じゃあねえな!?」
鎌鼬の長男が、牙を剥きながら言うと、兄の後ろで弟たちが援護をするように威嚇の表情を強く引き締める。
「私の名前は憑き姫。こっちが軒太郎。私の下僕ですわ」
「誰が下僕だ……」
紹介を語る憑き姫に対して隣の男は、凍てつくような眼差しで上から見下ろし冷静に否定を述べる。
しかし憑き姫は、睨む男に視線を向けずに鎌鼬たちから目を離さない。
「憑き姫……、軒太郎……?」
鎌鼬の長男は、僅かに聞き覚えが残るふたりの名前に首を傾げた。
そこに背後から次男の声が飛ぶ。
「俺、こいつらを知ってるぜ!」
「なんだ?」
「軒太郎と憑き姫って、ここ最近、日本各地で妖怪狩りをしているって噂の二人組みだ!」
「妖怪狩りだと!?」
「よくご存知で――」
次男の台詞に黒い男が怪しく笑って答えた。とても善人に見えない笑みだった。
全身から魔の気が垂れ流しになっていた。
最初のコメントを投稿しよう!