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「知っているなら話が早いわ」
鋭い眼差しで述べる少女の手の中に、一冊の分厚い書物が現れる。巫女の姿に合わない魔道の書。
その分厚い書物を左手に載せた少女は、ページを右手の指でパラパラと巧みに捲る。
歳の頃は、十五六だろうか。しかし妖艶で美しい顔立ちをしていた。
「殺り合う積もりか!」
憑き姫が手にある魔道書を開くと、鎌鼬三兄弟も警戒の構えを攻防の構えに変える。
人間のサイズと大差ない大きさの鼬たちが、獰猛な獣面に変わると同時に、両手が鋭い鋼色の刃物に変化する。
まさに鎌鼬――。
「いい感じの鎌だな。鋭さがとても良い。是非ともそれが欲しい」
怪しい笑みを見せたまま軒太郎が、黒いコートの中に手を入れる。
コートの下も黒いスーツだった。首には白いマフラーを巻いている。履いているものも黒いカウボーイブーツである
。
まるで西部劇の悪徳保安官のようだった。
見た目も醸し出す空気も怪しさが感じられる。
この軒太郎と呼ばれる男は、明らかに善人には見えない。むしろ悪党の部類に見て取れた。
「ふふっ」
そして軒太郎は、鼻で笑い、黒コートの中から一丁のショットガンを取り出す。
M1100ディフェンダー。
長いサイズのショットガンを携帯しやすく可能な限り短めにカスタムマイズされた一丁。
全長520mmのコンパクトボディー。黒い銃が街灯に光り、威圧をその身に映し出す。
「ショットシェルは四発しか入らないが、獲物を三匹程度狩るには十分な弾丸数だ」
軒太郎が黒いコートから抜いたショットガンを、腰元で低く構えた。深い闇を映す銃口が、三匹の妖怪へと向けられた。
「こいつバカだぜ! 妖怪に人間の兵器が効くわけないじゃん!」
薄く笑いながら揶揄する鎌鼬の三男が、ひとり空へと素早く跳ねる。
高く飛んだ鎌鼬の三男は、建物の壁や電信柱を蹴りながら激しく空中を飛び交い翻弄を狙うと、加速を増して天から両手の鎌を振り被りながら軒太郎へと襲い掛かった。
両手の鎌が鋭く光り、閃光の筋を闇夜に残す。
真空の斬激を思わせるふたつの鎌が、ショットガンを手にする男の首を狙い飛んで行く。動きはとても速かった。
「ふっ」
黒いテンガロンハットのつばが、男の表情を隠していた。しかし口元は、余裕を演出するかの如く薄笑いを続けている。
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