その夜の話

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ヤクザとの戦いが終わり事務所内に戻ったヴァルハラメンバー。事務所の台所からはイゴールが準備している夕食の香しい匂いが漂ってきていた。 あの怪物じみた大男が調理しているとは思えない香りである。 きゅるるるるるぅ~。 昂輝の腹がなる。 不死身でも腹は減るらしい。 飢え死にこそ無いとは思うが、ちゃんと空腹感に襲われる。 これも昂輝の中に潜む複数の呪いが苦痛を与えようとしているのかもしれない。 「ふぅ……」 昂輝が溜息を零す。 ヴァルハラエージェントの面々は、各自様々の場所に腰を下ろして寛いでいた。誰一人の顔からも戦いからの疲労は見当たらない。 憑き姫は、奥の部屋のソファーに腰掛け何やら本を読んでいる。そこが彼女の定位置なのだろう。事務所に居るときは、そこで本を読んでいることが多い。 昂輝は、黙って憑き姫の向かいに座っていた。 眼一郎は、所長と看板が置かれた机とセットの社長椅子に座りながら手にした書類を眺めていた。仕事熱心である。 後ろの窓ガラスは銃撃戦の際に割れてしまい、ダンボールとガムテープで塞いである。明日の朝、業者を呼んで直してもらうそうな。 極道コンビの二人は、眼一郎の前に置かれた応接セットのソファーに向かい合うように座っている。赤股の隣に軒太郎も座っていた。 功凪老は腕を組みながら厳つい顔で目を瞑り、何やら瞑想に耽っている。 軒太郎と赤股の二人は、賑やかな話題に盛り上がっている。盛り上がっていると言っても、赤股が一方的に話して軒太郎が聞き役に回っていた。話の内容は、北海道での仕事のことだ。赤股が何人倒したとか、どう倒したかの自慢話ばかりである。 昂輝も最初のうちは赤股の自慢話を興味深く聞いていたが、話が続いているうちに同じ内容を繰り返しはじめたので、聞くのを止めた。 営業スマイル満開の軒太郎が、辛抱強く赤股のリピートトークを聞いてあげていた。 昂輝が向かいに座る憑き姫に、小声で訊いてみる。 「憑き姫。赤股さんって、いつもあんな感じで話すの?」 「ええ、リピート魔人よ。お酒が入ると、もっと酷いわ」 「そ、そうなんだ……。気をつけるよ」 事務所内に赤股のはしゃぐ声が広がる中、奥の台所からフリルの付いたエプロン姿のイゴールが現れる。 「はーい、皆さん~、夕ご飯ですよ~」
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