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可愛らしい幼女の声と共に剛腕で運ばれてくる料理の数々。
大きな皿に盛られた山のようなパスタ。ナポリタンである。
そのパスタの上には草鞋サイズの厚いハンバーグがドデンと乗っかっていた。
インパクトの強さに唖然とする昂輝。
なんともショッキングな料理である。
そのような料理が盛られた皿をイゴールは、各自一人一人の前に一皿ずつ置いて行く。どうやらこれで一人分らしい。
もちろん憑き姫や昂輝の前にも同じ大盛りパスタハンバーグが置かれる。
明らかに三人前はある。昂輝は戸惑っているが憑き姫は平然としていた。
更にイゴールは各自の前に、どんぶりに注がれた豚汁を配っていった。
昂輝がどんぶりの豚汁を覗き込む。
「……」
声が出ない昂輝。具沢山の豚汁だ。
牛蒡、蒟蒻、大根、豚肉、その上には薬味の葱がパラパラと。否。なみなみと……。
汁の水面よりも具が氷山の一角の如く迫り出している。
しかも豚肉の量が、他の具よりも多いように見える。
「こ、これで一人前ですか……」
若干引きつった顔と声で昂輝が問うと、男性陣が嫌らしく微笑んだ。
「とうぜんだよ昂輝君。このぐらい男なら容易く食べなくては、ねぇ~」
意地悪げに軒太郎が言うと、極道コンビも悪ふざけに続く。
「そうだぞ少年君。食える時に食っとけよ。この家業、仕事がなくなると、一日三食なんて食えなくなるもんだせぇ」
「そうじゃぞぉ、若いの。酷い時は、一月三食になりかねないからのぉ」
「一ヶ月で、三食のみって……。そ、そんな冗談を……。皆さん、からかわないでくださいよ。あははは……」
力薄く笑う昂輝。ただの脅しだと思う。
眼一郎が、手にしていた書類を机の上に投げて話に加わる。
「昂輝君。冗談じゃないよ。探偵なんて、毎日仕事があるわけじゃあないからね。
依頼人が来ないことには、マンマの食いパグレだよ」
「父さん、あの時は、お客が日照りの如く来なくて辛かったですよね……」
軒太郎が虚空を見ながら言う。表情がしんみりしていた。
眼一郎も悲しそうな眼差しで遠くを見ながら言葉を返した。
「あぁ……、魔の三ヶ月の話だね……」
三外親子の会話に、男性陣四人が下を向いて暗黒のような空気を漂わせ始めた。室内が陰気な空気で重くなる。
「魔の三ヶ月って、何があったのだろう……」
昂輝の言葉に答える者は居なかった。憑き姫も視線を昂輝に合わせようとしない。顔を不自然に横へと向けていた。
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