その夜の話

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「魔の三ヶ月って……。いったい何が……」 訊かなくても何となく理由は想像できたが故に、ここはそっとしておこうと昂輝は思う。 さぞかしひもじい体験を味わったのだろう。 「はいはい、その話は終わりだよ~」 暗い空気を祓うようにイゴールの乙女チックな黄色い声が飛んで来る。最後に自分の分の食事を持って台所から出て来た。 「皆さ~ん、暗い話は御法度です。ご飯は明るいトークをしながら食べましょうねぇ~」 イゴールの明るい意見に、昂輝が気の効いた答えを返さんと視線を向ける。しかし目に入った異常に思わず「デカっ!」と、驚きの声を上げた。 イゴールの右手には、皆と同じパスタハンバーグが盛られた皿が持たれているのだが、皿が一回り大きい。 もちろん盛られたパスタも超大盛りと成っている。 上に乗せられた草鞋ハンバーグも三枚であった。 左手に持たれたどんぶりも、特注の大型どんぶりである。頭に被れば鼻まで隠れてしまうサイズであった。 イゴールは、それを昂輝と憑き姫がいるテーブルに置くと、昂輝の隣に腰を下ろした。イゴールの体重に、ソファーが壊れそうなぐらい沈む。昂輝も思わずバランスを崩してよろめく。 眼一郎が明るい声で言う。 「そうだな、暗い話は禁物だ。ディナーは明るく楽しく頂こう」 「そうですね、父さん」 合掌しながら眼一郎が音頭を取った。 「それでは、頂きます!」 「「「「頂きます」」」」 眼一郎に続いて全員が合掌しながら声を合わせる。昂輝も慌てて皆を真似た。 ご飯を食べれることに感謝する。 どうやらこれも、ヴァルハラルールの一つらしい。 その後、楽しい食事と会話に探偵事務所内は、活気付いた。 昂輝もおおいに笑い、楽しい食事となる。 やはり一人で食べる食事よりも、大勢で食べる食事の方が美味しく感じる。 まだ、知り合って数日であるが、ヴァルハラメンバーから不思議な温かみを感じていた。 両親が自殺して、故郷の人々から厄介者扱いされた。 すべては呪いのせいだが、此処の人たちと一緒にいると、その辛さが和らぐ。不思議であった。 そういえばお砂さんが、ヴァルハラ事務所と砂壷荘には、呪いの災いを押さえる結界が張られていると言っていた。 昂輝は、その効果なのかなと思った。 いや、違う。 この楽しさは、もっと別のものだ。 結界とか呪いとかは、関係ない。 きっとそうだ、と、昂輝は思い微笑む。
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