その夜の話

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楽しく食卓が続いていた。皆が喋りながら食事を続ける。 昂輝も食べては喋り、喋っては食べた。 食事は長く時間が掛かっていた。何せ量が多い。食べるのに時間が掛かる。 ふと、昂輝の視線に憑き姫の様子が目に入る。 昂輝と向かい合い静かに食事を取る憑き姫を、昂輝が不思議そうに見た。 「ところで、憑き姫」 しばらくして昂輝は疑問に抱いたことを本人に訊いてみた。 「なに?」 「憑き姫は、そんなに食べれるの……」 大盛りパスタに草鞋ハンバーグ。それにどんぶりいっぱいの豚汁。とてもじゃないが、小柄な少女が食べれる量とは思えない。 昂輝ですら妊婦のような腹になっているが、まだ食べ終わっていない。 「食べるわよ」 「本当に……?」 「――うん」 そう話しながら憑き姫は食事を続けるが、他の面々が食事を終えてもまだ食べていた。半分以上が残っている。 昂輝もやっとの思いで全てを食べ終える。 不老不死でアルコールの分解スピードが速い特別な体でも、食事が入る胃の大きさは人並みだ。消化が速い訳でもない。 「ふぅ~……、食った食った」 腹がはち切れそうである。 もしかしたら胃が破けているが、再生しているだけかもしれない。 お腹が苦しい。 とてもじゃないが、この量を自分よりも小柄な憑き姫が食べれるとは考えられない。無理だと思う。 案の定であった。 憑き姫のパスタもハンバーグも半分ぐらい残っている。豚汁もだ。 憑き姫の表情からしてこれ以上食べれそうにも見えない。 「ほ、本当に食べれるの……」 また同じことを問う昂輝。 すると憑き姫は、「うん」と一言返す。 そしてテーブルの下からプラスチックのタッパを取り出し食べかけのパスタとハンバーグを移し替えはじめた。 「お持ち帰りかよ!」 昂輝が景気良くつっこむ。 すると憑き姫は、更にテーブルの下から水筒を取り出して、中に豚汁を移し替え始めた。 「豚汁もかよ!」 こうして探偵たちの食卓が終了した。 「「「「「「ご馳走様でした」」」」」」 最後に皆で合掌して言う。 これもヴァルハラルールの一つである。
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