その夜の話

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探偵事務所での食事会が終わる。 ヴァルハラメンバーは、膨れたお腹が落ち着くまで、まったりとしていた。何気ない会話が繰り広げられる。 ふと、昂輝が質問を投げかける。 今日の朝から気になっていたことだ。 「そういうば、お砂さんを今日一日見ませんでしたが、今日はお休みですか?」 誰に訊いた訳ではない。誰か答えてくれると思い訊いてみた。 今居ないお砂を加えれば、ヴァルハラメンバーが全員揃う。しかし昂輝は朝から彼女の姿を見ていない。 昂輝の疑問に、社長椅子にふんずりかえって居た眼一郎が答えた。 「ああ、今日はお休みだよ」 続いて軒太郎が話す。 「お砂ねぇさんは、我々と違って探偵業が副業なんでね、日頃から事務所に屯している訳じゃあないんだよ」 「副業――ですか?」 「お砂ねぇさんの本業は、不動産屋だよ」 「不動産屋ですか」 「社長だよ」 「社長ですか!?」 驚き反芻する昂輝。 少し意外だと思う。あんなに優美でおっとりした女性が不動産屋の社長とは、ビックリだった。 軒太郎が言う。 「お砂ねぇさんは、この辺の大地主でね。 昂輝君が住むことになった砂壷荘の土地だって彼女の私有地だよ。 このビルだって昔、お父さんがお砂ねぇさんから譲り受けた物件だよ」 「凄いですね……」 「元々がお嬢様だからね」 あの気品と優雅さは、令嬢の貫禄だったのかと悟る昂輝。 言われてみて、お砂へのイメージが確定して行く。お金持ちなのだと納得する。 赤股が笑いながら言う。 「お上品で、美人で、色っぽくって、ムチムチのボインボインで、お金持ち。文句の付け所が無いのに、何でいまだに結婚できないのやら」 「赤股君。それを本人の前で言ったら砂に埋められるよ。昂輝君も気を付けるといい」 眼一郎が昂輝と赤股に注意を促す。どうやらお砂に対して「結婚出来ない」と言う話題は禁句らしい。 昂輝も何故に結婚できないのか疑問に思ったが、所長の警告を守ろうと心に決める。 故郷の大塚邸で見たお砂の戦いっぷりからして、怒らせるのは危険だと察する。 二人に警告を述べた眼一郎が、話題を変える。今度は昂輝に関係した話であった。 「ところで功凪爺さん」 「なんだ?」 「折り入ってお願いがあるんだが、いいかな?」 「ん――?」 「昂輝君の事なんだがね」 「僕の事ですか……?」 キョトンとする昂輝を余所に話を進める眼一郎。
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