その夜の話

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「教えるのは武術の基本ぐらいだ。本格的には教えない。精々空手と柔道の基礎ていどだぞ。それに月謝はちゃんと頂く」 「有り難う御座います!」 また頭を下げる昂輝。 「あと、普段は弟子の夏鱗が指導する。ワシが自ら指導するのは、たまにだけだ。文句はあるめいなぁ」 「ありません!」 と、昂輝が元気に答えるが、赤股は「ズルっ!」と声を上げていた。しかし断る気配は無い。 こうして昂輝が強者を目指すための第一歩が始まろうとしていた。 今後昂輝が、どのような個性を見つけ出し強くなって行くかは、この段階では本人を含めてヴァルハラメンバーにも分からなかった。 だが、これはこれで面白いと他の者たちは思っていた。 よちよち歩きの未完成品が、どのようになるか楽しみである。 少年の未来。少年の成長。それらを面白半分で皆が期待した。 「さてさて、どうなるのかしら――」 一人静かに本を飲んでいた憑き姫が小声で呟いた。男たちに耳に届いていない。 ――少年には、無限の可能性が秘められている。 ――誰にでもだ。 ――昂輝にもだ。 ――君にもだ。
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