その夜の話

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「ねぇ、憑き姫」 「なに?」 昂輝の呼びかけに憑き姫は、真っ直ぐ前を向いたまま答える。歩みも止めない。 昂輝は、以前疑問に思ったことを彼女に訊いてみる。 「憑き姫は何で、ヴァルハラ探偵事務所で働いているの?」 「……」 眠たいのもあってか憑き姫は答えない。黙ったまま歩く。 「憑き姫の歳からして、今は小学生の高学年か、中学生になったぐらいだよね? 学校は行っているの?」 「学校は行ってないよ」 あまり驚かない昂輝。憑き姫なら、それもアリかと思っていたからだ。 まるで彼女は、アニメかマンガの中から出てきたような美少女キャラだからである。このような子は、普通居ない。 「なんで?」 「私、飛び級だったの――。アメリカで、十歳の時に大学を卒業したわ」 「て、天才!」 「そう、世に言う天才児よ」 「凄いな……」 「大学卒業して、大学院に行くのを進められたけど、日本に帰ってきたの」 「なんでだい?」 「オカルト――。カードで魔物の魂を操る術を習得して、そっちの方が楽しかったから」 「な、なるほどね……」 嘘っぽい。 嘘っぽいが、とりあえず信じようと思う。 それにヴァルハラ探偵事務所に居る理由は語っていない。何か怪しい。もっと別の理由がありそうだ。 そして暫く経つと、大きなマンションの前で憑き姫が立ち止まった。 三十階建てぐらいだろうか。部屋数が幾つあるかは、一目で分からないほど大きい。明らかに高級マンションだ。 彼女は、此処が住まいだと言う。 「じゃあ――」 憑き姫が昂輝に軽く手を振ると、マンションの入り口へと歩いて行く。 昂輝も「また明日」と言って手を振った。 憑き姫がマンションの入り口奥に消えて行くのを昂輝は確認すると踵を解した。聳えるマンションに背を向けると夜道を歩き出す。 「ん~、こっちじゃないな……」 昂輝は少し歩いたところで、進んでいる方向が砂壷荘の方角と違うことに気付き進む方向を改める。なれない町だ、こんなこともあるだろうとマンションの方角に戻って行く。 「あれ……?」 二十メートルほどの距離にマンションの入り口が見えてくると、そこに見慣れた少女の姿を見つける。白いワンピースの少女。憑き姫だ。 彼女がマンションの入り口から出てくるところだった。憑き姫の方は、引き返してきた昂輝には気付いていない様子である。そのまま昂輝が居る方角とは逆の方へと歩き出した。 とりあえず追う昂輝。
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