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「どうしたんだろう……」
疑問に思う昂輝は、気付かれないように後をつける。何故かこそこそとしてしまった。
「どこに行くのかな?」
憑き姫の後を追いながら昂輝は、疑問に自答を考え始めた。
探偵事務所に忘れ物でもしたのかと思ったが、進む方角は事務所の方角とも違った。別の道に進んで行く。
ちょっとコンビにまで?
――それもピンと来ない。
声を掛けようかとも考えたが、何故か躊躇する。
ほんの三分ぐらい歩いただろうか、先程の大きなマンションの裏側だ。
そこに二階建てのアパートが建っている。昭和に建てられたような古びたアパートであった。憑き姫は、そのアパートの階段を登って行く。
「なんであんなところに……」
憑き姫の後を付けていた昂輝は、そう呟きながら電信柱の陰に隠れていた。階段を登った憑き姫が良く見える距離だった。
憑き姫は二階に並ぶ一室の前に立つ。薄汚れたドアの前だ。
そのドアの部屋には電気がついていた。窓から明かりが見えている。
そして憑き姫は、白いワンピースの胸元から、ネックレスのように下げられた紐をたくし上げると、部屋の鍵を取り出した。
「鍵っ子……?」
ドアの鍵を開けて中に入っていく憑き姫は、小さな声でただいまと言っていた。静かな夜のため、その声が隠れ見ている昂輝の場所まで届いた。
憑き姫が部屋に入っていくと、昂輝は階段を忍び足で駆け上り、その部屋の前に潜むようにしゃがみ込んだ。盗人のように耳を澄ます。
中からは憑き姫の声が聞こえてくる。更にもう一人の声も聞こえて来た。
室内には憑き姫の他にも、もう一人誰か居る。
昂輝の心中に、誰なのだろうと好奇心が沸き上がった。心臓が高鳴る。
「気分はどう? お薬はちゃんと飲んだ?」
「ああ、ちゃんと飲んだよ……」
男性の声である。
年配だろうか、随分と元気のない声質だった。弱々しい。
話の内容からして病人のようだ。
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