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そして祖父の会社に入社してから直ぐにアメリカの支部への転勤願いを出し、念願叶ってニュージャージー支部に転勤が決まったのである。
一族全員が驚いた。
身内の中でも一ニを争うろくでなしの勝之が、ついに仕事へと目覚めて真面目になったのかと――。
無論それが誤解だと全員が認識を直ぐに改める。
やはり勝之はろくでなしだと再認識する。
勝之はアメリカに渡ってから一年で会社に出社しなくなった。
家族親戚の目が届かないことを良いことに、現地の金髪美女と夜な夜な遊びまわり、堕落を全力で満喫していたのである。
そんな怠惰の日々は、勿論の如くすぐさま東和栄光の耳に入り、日本へと強制送還されたのである。
それからは厳重な監視下で、重役でありながら会議にも主席擦る事無く、日本の本社ビルの窓際に座り続けていた。
親戚一同からは、ダメ人間の烙印を押されているが、本人はさほど気に止めていない。
仕事はきっちり五時まで。
時計の針が五時を差したら直ぐに退社して行く。アフターファイブに専念しているのだ。
期待もされていない。仕事もしていないに等しい。
それでも一日八時間の拘束で、人が羨む程の手取りをもらえるのだ。本人は満足していた。
東和勝之たる男には、それ以上の欲も野心もない。
まさに、東和グループに寄り掛かった人生そのものである。
「……ぅうん?」
寝ぼけ眼を擦りながら歩き出す東和勝之。締められたカーテンの隙間から零れる朝日に誘われて行く。そしてカーテンに両手を伸ばし、一気に左右へと開けた。
ガラガラとカーテンレールが鳴って開く。
最初は朝日に目を細めていた勝之だが、見えてきた景色に驚く。
「えっ!?」
外を見て声を詰まらせ驚いた勝之は、その異常な光景に愕然としながら震えた。
いまいち状況を理解しきれないのか、暫く立ち尽くしたまま固まる。思考が停止していた。
「……な、なんだよ……これは……!?」
慌てた足取りで踵を返した勝之は、寝巻きのまま部屋を駆け回る。何をどうしたら良いのか判らない。
とりあえず衣類を着替えた。
スーツ姿に着替え終わると、駆け足で自室を飛び出して行った。
自分ひとりでは答えが出ない。家族を探して廊下を走った。
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