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赤い絨毯が敷き詰められた屋敷の廊下を勝之は走った。動転した表情を、一滴の汗がつたって落ちて行く。スーツの下ではボタンを掛け違えた白いワイシャツが靡いていた。
先ず勝之は、理沙の部屋を訪ねたが部屋に妹は居なかった。次に父と母の部屋を訪ねるがやはり両親も居なかった。
「こんな時に何処行きやがった! まだ朝だぞ!」
三人とも早朝から何処に消えたかと狼狽して愚痴を零す。
そして、答えを求めるように再び走り出す。
暫くして一人のメイドと出くわした。若いメイドである。
勝之に対してメイドは、礼を弁え深々と頭を下げた。
慌てて足を止める勝之。メイドに乱暴な口調で問う。
「おい、親父やお袋は何処に行った!?」
「は、はい……?」
何事かと戸惑うメイドは、キョトンとした表情で身を強張らせる。興奮した勝之に怯えていた。
勝之の両手が華奢なメイドの両肩を荒々しく掴んで揺さぶる。メイドは更に怯えて言葉を返せない。
「皆だ! 誰でもいいから、皆何処に行った!? 爺さんは!? 細川は何処だ!?」
「み、皆様なら、二階のパーティールームに集まっていましたが……」
震えながら答えるメイド。
広い庭が見渡せるパーティールーム。昨日探偵と面会した部屋である。
勝之は、怯えるメイドを解放した後、パーティールームを目指して走り出した。
パーティールームには直ぐ到着した。入り口の扉は開いている。
勝之が中に駆け込むと、昨日から帰宅していた家族の面々が、庭が一望できる大きな窓の前に並んでいた。秘書の奥村、執事の細川もいる。それと数人のSPたち。
早朝にも関わらず全員の身形が整っている。
動転して靴下を片方履いていないのは、勝之ぐらいであった。女性はきちんと化粧もしていた。
勝之が部屋に駆け込む。息が切れている。
「遅いわよ、勝之」
嗜めるように言ったのは母親の栄江だった。出気の悪い息子の為か、早朝の為か、栄江は機嫌が悪そうであった。
「ど、どうなってるんだ、お袋……」
言いながら勝之は、横一列に並ぶ一族の端に加わる。
「どうなっているも、こうなっているもないだろ。見たままだ……」
勝之の質問に答えたのは、叔父の栄進だった。視線は外を向いている。勝之も前を向いた。
一族の視線が庭に向く。
そこに聳えるのは巨大な門。
の、筈だったが――。
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