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「見たままもなにもねえだろ。昨日と違うじゃねえか!」
東和一族のみに見える巨大門は、前日までと変わっていた。変貌している。
否。巨大門は変わっていない。
「あれは、城壁だろ……」
巨大門の両脇に伸びる石造りの壁。勝之の言うとおり城壁である。
城壁は、岩を切り開いて作られた巨大ブロック状の物を積み重ねて築かれていた。それが巨大門を中心に百メートルほど両サイドに伸びており、その先で霧の様に消えて途切れていた。
巨大門は、巨大城壁へと変貌して東和邸の前に立ち並んでいる。
まるで、難攻不落と歌われたトロイの城壁であった。
「奥村……。探偵に連絡を入れたか」
当主である東和栄光の言葉に秘書の奥村が、「既に――」と答えた。
東和の一族は緊迫の表情で外を見ているが、奥村は冷静を保っている。彼には見えないのだ。怪異の建造物が。
「先程迎いの車も出しました故、暫くもしたのならば到着するかと」
「そうか……」
流石の東和栄光も緊張を隠せていない。皺の多い顔が緊張に力んでいた。
それを勝之がチラリと確認すると、愚痴を怒鳴らせる。
「どうなってるんだ、これは呪いか! 祟りか! なんなんだよ!?」
我慢しきれず大きな声で怒鳴り問う勝之。だが、全員が無視するように答えない。執事の細川が宥めようと勝之の側に立つ。
「やっぱり、あいつの仕業か……」
「馬鹿いわないでよ、栄進。あいつは今病院よ。意識不明よ、そんな訳が無いじゃない!」
弟の言葉に栄江がヒステリックに答えた。苦虫を噛み潰したような顔を見せていた。
二人のやり取りを見て勝之が首を傾げる。
叔父の栄進が言っている『あいつ』とは、おそらく竜栄のことだろう。
勝之は知っている。
竜栄が、母や叔父の栄江と腹違いであることは知っている。隠しもしない真実である。そして病院に意識不明で入院していることも知っていた。
いっそそのまま死ねば良いと思っている。そうなれば祖父の遺産が少しは踏めるってものだ。あの男に対しては、その程度にしか考えていない。
しかし今現在のこの状況では聞き捨てなら無い台詞であった。
叔父の栄進を睨みながら訊く勝之。心の腐った瞳に脅しが混ざっている。年上であり、叔父に向けるような視線でない。
「栄進叔父さんよ、テメー何か知っているな!?」
「俺は関係ない!」
栄進が甥の質問に、威嚇を思わせる強い声を上げた。
「じゃあ、あれは何だ! 何なんだ!」
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