プロローグ

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軒太郎は、あっという間に残り三発の弾を撃ちつくす。シェルをアスファルトに散らばすばかりだった。  「ちっ」 軒太郎の舌打ち。表情から余裕の色が消えて苛立ちを晒していた。 「憑き姫、頼む!」 「わかってるわ」 軒太郎の言葉に少女が答えた。 少女は開いた魔道書の中から一枚のカードを取り出す。カードのサイズはトランプと変わらない。 書物だと思えた分厚いものは、トレーディングカード用のクリアファイルだった。 憑き姫は、取り出したカードを眼前に投げた。放たれたカードは宙に浮く。 「乳母が火 ザ・ファイアーブレス!」 クールな抑揚で唱える憑き姫の呪文。直後、浮いていたカードが光って消える。 そして消えたカードの代わりに、メラメラと音を立てて燃え上がる火の玉がひとつ現れた。 大きさは、人の頭部と同じぐらい。不気味な表情をした老婆の顔がある火の玉だった。 地を駆ける二匹の鎌鼬が、軒太郎と憑き姫に迫る直前に、カードの中から現れた老婆の人魂が、口から激しい炎を吹き出した。 炎は大きく路地を包み、迫る鎌鼬二人を丸ごと飲み込んだ。 軒太郎が黒コートを盾に炎から顔を隠す。憑き姫は、その軒太郎の陰に回り込み身を守っていた。 軒太郎がずるいと感じる。 「うわわわ!」 「あちちちち!」 鎌鼬二匹は、熱さに叫びながらも後方へと飛んで逃げた。 全身の体毛が焦げ上がり表情を火傷に歪めるが、すぐさま引火した炎を払い落とし、危ういところを脱する。 巨大な火炎だったが致命傷を与える程の火力がなかった様子だった。炎の息を吐いた妖怪乳母が火は、炎を吐き終わると霧の様に消えていく。 「おのれ!」 火炎から逃れた鎌鼬の兄弟が、態勢を整え直そうとし、一言愚痴をもらした刹那だった。黒コートの中から二本の刀を引き剥いた軒太郎が突っ込んで来た。 「この二太刀は、アイヌの妖刀イベタム。生き血を好む双子の妖刀だ!」 二刀流で鎌鼬の長男に襲い掛かる軒太郎。ロングコートを靡かせ嬉しそうに笑っている。怪しさが全身から滲み出ていた。 しかし剣技は本物。オシャレで二刀を振り回している様子ではない。 その証拠に、ふたつの鎌で対抗している長男が、冷や汗を流しながら応戦に苦しむ。
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