プロローグ

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「弟よ、お前は女を殺せ!」 「わかったぜ、アニキ!」 軒太郎の二刀と長男の鎌ふたつが鍔競り合いを繰り広げる中、次男が兄の指示に従い憑き姫に狙いを定める。ギロリと睨んで走り出した。 「こっちに来るのね……」 憑き姫は、獰猛に迫る鎌鼬を見ても冷静に対処を見せた。焦りのひとつも態度に出さない。 そして左手に乗せたカードファイルから再び一枚のカードを取り出すと、呪文と共に前へと投げる。 「いべたむ ザ・ダブルブレイド!」 宙に浮いたカードが光って消える。代わりに二本の妖刀が姿を現す。軒太郎が持っている二太刀と瓜二つの二本だった。 「ぬぬっ!」 突如現れた妖刀二本に、鎌鼬の速度が警戒のためか緩んだ。 そして、憑き姫の眼前に浮く二本の妖刀が、ひとりでに斬激を振るう。狙いは迫る鎌鼬の次男。 まるで見えない剣技の達人が振るったような素晴らしい太刀筋。クロスさせた光の斬弾がX字に飛び放たれ、次男鼬の体を見事に切り裂いた。 「ふぎゃぁああ!!」 四つに切り裂かれた次男の体が血飛沫を散らして無残にも転がった。 「弟よ! おのれーーー!!」 台詞とは裏腹に、戦力差から来る恐怖心に顔を青ざめる鎌鼬の長男。二人の弟を喪い、独りが心細そうだった。 そして軒太郎と交えていた刀を強く払うと、背を向け全力で逃走を始めた。 弟たちの敵討ちよりも我が身が大事なのだろう。逃げる背中に必死な思いが伝わってくる。 「憑き姫! 逃がすなよ!」 軒太郎の声に、更なるカードを取り出す憑き姫。クールな声で、カード名が唱えられる。 「ぬりかべ ザ・ウォール!」 「ぬりかべ~~」 己の名を登場の挨拶へと代え、大地を揺らして姿を現す妖怪の壁。 「な、なんだ!」 逃走を図ろうとした鎌鼬の前に、突如巨大な壁が競り上がり、道を塞ぐ。 鎌鼬が勢い余って壁に激突して止まった。両手の鎌が壁に突き刺さる。そして抜けなくなった。 「抜けない、なんでだ!」 両手が突き刺さった灰色の壁に、蹴りを入れながら踏ん張る鎌鼬。 早く逃げなくてはと思う心が焦りを呼んで、必死を誘う。しかし両手の鎌が抜けない。 背後から体を揺らして迫る軒太郎の気配が伝わってくる。その気配は、明らかに殺気。 そう、殺人鬼と同じ類の残忍な殺気だった。
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