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「すまんな。このイベタムって妖刀は、生き血を吸わないと鞘の中に収まっちゃくれないんだ。故に妖刀ってな」
「ひぃぃぃ、おたすけよーー!」
両手を壁に囚われながら後ろを振り向く鎌鼬は、完全に戦意を喪失していた。
顔は怯え、体を震わせ、口からは命乞いをせがむ情けない台詞しか出てこない。
恐怖のためか、穿いた短パンの前が哀れにも染みを広げていた。
「お前の生き血で、こいつらの殺戮欲を静めさせて貰うぜ。ただ俺が、お前を殺したい訳じゃあないんだ。すまんな」
嘘である。それが震える鎌鼬にも瞬時にわかった。
漆黒に全身を統一するカウボーイは、明らかに殺人鬼そのものに見えた。
瞳はテンガロンハットに隠れて見えないが、完全に口元が笑っていた。殺意を妖刀に責任転嫁している。
逃れられない鎌鼬の背後に立つ軒太郎。怪しく光る刀身ふたつが、鎌鼬の背中を優しくなぞる。まるで女性の肌に触れるように官能的な動きだった。
鎌鼬が身を捩る。
畏怖する鎌鼬の体内から、恐怖があふれ出て流れ落ちて行く。
歯茎が、ガタガタと小刻みに音を鳴らす。
「安心しろ、俺は案外慈悲深い。ひと思いに殺してやるさ」
「ぐはっ!」
慰めにもならない一言の直後、ふたつの刀身が鎌鼬の背中に突き刺さる。
そして胸まで貫通して、紅く染まった切っ先ふたつを胸の前から覗かせた。
軒太郎の宣言どおり、直ぐに鎌鼬の双眸から光が失われていく。ひと思いだった。
道を塞ぎ、鎌鼬を捕らえて離さなかった灰色の壁が霧と化して消えていく。すると鎌鼬の両手がダラリと下がる。既に絶命している様子だった。
鎌鼬を串刺しにしている二刀へと体重がのし掛かる。その重みに死を確認した軒太郎が、二刀を引き抜きコートの中にある鞘へと戻した。
「やったわね。これでカマイタチを頂だわ」
そう言いながら憑き姫が、クリアファイルの中から一枚のカードを取り出す。何も書かれていない白紙のカードだった。
僅かに俯きながら瞼を閉ざす憑き姫。可愛らしい口からは、何やら複雑な呪文が流れ出る。
その呪文に誘われ、三つの死体から浮き上がる白い塊。
妖怪の霊魂だ――。
それらは白い尾を引きながら自由に飛び回ると、やがて白紙のカードの中へ己から飛び込むように吸い込まれていく。
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