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僕は巽さんに言われるままに
トンネルの中程まで進み
路肩に寄せて車を止めた
エンジンを止めると
途端に深い深い静寂に包まれる
余りに静かで、耳が痛いような気さえした
巽さんは、出発前に買っておいた缶コーヒーを飲みながらタバコに火を着ける
「にしても、わかりません」
「なにが?」
「こんな真夜中に、こんなところで何してるのか…ですよ」
何がじゃねえだろ!っと
言いたくなったがやめとく
「まぁまぁ、夏の夜の風流さ…」
…わけがわからん
ポツリ、ポツリ…
「おっ、降ってきたねぇ…」
やはりジメジメした空気は
雨の予兆だったのか
ってか、なんかひっかかるなぁ…なんだろ?
降り始めた雨が
車体に弾かれて流れていく
「ねっ、ヒロ君」
「はい?」
「今日はね、月曜日なんだよ」
わかってるけど…?
「はい、日付変わりましたしね。あぁそっかぁ!」
どうりで、車が少ないわけだ
ここへ来る途中ですれ違ったのは
1、2台位だった
町中を抜ける高速があるから
わざわざこっちの道を使うのは
峠を攻める!なんて感じの走り屋位のものだ
まして、日曜日の夜中
つまり日付が変わって月曜になるから
そういった連中も今日は居ないんだ
「オレは待っていたんだ。」
巽さんがタバコを揉み消しながら言う
「静かな夜にはしりたかったんですか?」
ハハハ!と笑った巽さんは
人差し指でコンコンと
窓を叩いた
「惜しい!でも違う。静かな夜なら、いいオンナと二人きりの方がずっといいさ。君もそうだろ?」
「確かにそうですけど…」
言いかけて
僕は気付いた
(雨だって?)
頭の中に沸き上がる
嫌な考えを振りきろうとする
そんなはずがないから…
降っている
はずがないから…
「気付いたかい?」
おそらく青い顔の僕に
考えないように必死に抵抗する僕に
悪魔がささやいた
「トンネルの中で雨が降るわけないよね…?」
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