夕陽の中で 第3章

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なおみ 「はーい。お待たせ」 純二 「じゃ、行こうか」 なおみ 「うん」 良子 「あっ、竹本さん。これ、少ないけど当分の経費」 純二 「そんな事してもらわなくても…」 良子 「でも、主人にも言われてるから、受けてって。足らなくなったらまた言ってね」 純二 「わかりました。お預かりします」 なおみ 「じゃ、お母さん、行ってきます」 良子 「いってらっしゃい」 純二と出かけるなおみは、ニコニコしている。そんな楽しそうななおみを、良子は久しぶりに見た。やはりなおみは、純二と一緒の方が、幸せになると思っていた。 なおみ 「ねぇ、どこに連れてってくれるの?」 純二 「そうだなぁ、じゃぁ俺達が初めて出会ったところ」 なおみ 「うん」 2人は原宿に来た。去年の9月、こずえと一緒に歩いた歩行者天国。マックでランチしていた時、引ったくりに遭い、それを純二が助けた。純二は、その時の模様を再現しようとしていた。平日のためか、歩行者は少なく、車も走っている。 純二 「なおみちゃんは、ここを友達と歩いてたんだ」 マックの前で、実際に座って鞄を置いた。 純二 「ここでランチしてた時、ひったくりが…」 その時、本物のひったくりが、なおみの鞄を本当に奪っていった。 なおみ 「あっ」 純二 「あっ、待てー!」 2人が出会った時と全く同じ光景だった。 なおみ 「あっ…、この感じ…。前にもあった」 もう少しで思い出せそうという時、なおみを頭痛が襲った。 なおみ 「!いたっ!頭が…」 うっすらと純二が犯人を追い掛ける姿が、なおみの目に映った。 なおみ 「た、竹本さ…ん」 なおみは、テーブルの上に俯せになって、気を失っていた。しばらくして、純二がなおみの鞄を取り返し、戻って来てみると、なおみが気絶していた。 純二 「なおみちゃん!どうしたんだ!しっかりしろ」 なおみ 「…あっ、竹本さん。あっ、あれ?私…」 純二 「記憶、戻ったのか?」 なおみ 「…少し」 純二 「どの辺りだ」 なおみ 「初めて会ったときのこと。竹本さんが、犯人を追って行く姿に見覚えがあった」 純二 「そうか。じゃ、次へ行こう」 2度目に会ったのは一係であった。
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