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この出来事を、知る人間はいない。彼らが理解しているのは、『何者かが猛スピードで部屋に飛び込み、ものすごい勢いでベランダを駆けていった。』ということである。
その理由は、光司郎が叫んだ一言にあった。
「加速装ー置!」
改造人間の汎用装備、加速装置。装備者を30秒に限り音速で走らせることができる。
これにより、光司郎が女子更衣室に飛び込んでしまった事実を知る者は、光司郎と夜叉、そして改造人間の能力を無視した行動を可能とする鬼である百だけである。
昨日と同じように、光司郎は、橋の上で夕陽を眺めていた。
「僕は最低だ。百ちゃん、僕のこと嫌いになったかなぁ………。」
「呼んだかえ?」
後ろから声がした。振り向くと、そこには百がいた。
「も、百ちゃん、どうして………。」
「ごめんなさいな。あの時、わたしがなんとかせば良かったに。」
「えっ?」
ちょっと状況がわからない。少し整理する時間がほしい。覗かれたにもかかわらず、彼女は愛想をつかしたりしていない。なぜだ?坊やだから?違うだろう。
「事情はなんとなくわかる。光司さんが覗きなんて、ましてやあんな見え見えにするはずねすけ。なんか訳があったんだろ?わたしは怒ってねすけ、帰ろう?」
「あぁ、ありがとう。」
二人は、手を繋いで歩いていった。
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