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一切の〝式〟を慧解する。
『ヒュドラは焼き斬ったくらいじゃ死にゃせんで』
そんなことはわかっていた。しかし、殺したつもりでいた。
この世界に引きずり込まれた時点で、既に罠に掛かっていたのだ。
自らの傲慢さ、驕り、慢心、その全てが憎い。切ないまでに狂おしい。悔しかった。
それでも。
その気高き瞳に住まう光は決して潰えることはなかった。
「あんたを苗床に、とびっきりの呪契(じゅけい)を植え付けといてやるわぁ。せいぜい生きてな?」
金翅鳥は笑いながら、ヒュドラは嘲笑いながら、その姿を消していく。頭の先から糸がほつれていくように。
数秒もすればなにもなかったように、ヒュドラの血も、雨一の藜の杖も、消えていた。
「う、く……!」
そんなことお構いなしに、身体が熱を帯びていく。植え付けられた呪契のせいだろう。酷く痺れる。
死にはしない。その程度だが、金翅鳥が言った『せいぜい生きてな?』とはそういうことではなかった。
「ぐ、あ……う、――……」
意識を放る直前。世界は変わった。
不規則に瞬いていた街灯は輝きを取り戻し、消えた雨一の手から滑り落ちた台本を照らした。そこには、酷く雑な字で、こう、書かれていた。
【されど君泣き、神笑う】
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