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それ以降、佐土原村の住人は姿を消し、工事の妨害もなくなった。
しかし作業中の事故が相次ぎ、工事は難航した。
死者も少なからず出て『佐土原村の呪い』として、畏れられたそうだ。
「そんな『いわく』もあってか、この場所で不可解な現象に遭遇する話が後を断たないそうだ」
「よくある話だな」
小太郎が鼻で笑った。
ダム建設や道路工事など、国が行う事業には少なからず犠牲が伴うものだ。
水没した村など、その典型的な例だと言えるだろう。
怪談のネタとしても珍しくはない。
それに何十年も前の工事技術では、事故も多かったはずだ。
それを『呪い』というには無理がある。
「まぁ、多少の誇張はあるかもしれないがな」
話をした警官も笑顔を見せた。
しかし、美郷だけは笑う気になれなかった。
強張った表情で小太郎の腕を掴んだ。
「何だよ、美郷。ビビってんのか?」
「いいじゃん、別に…」
「怖がらせてすまなかった。そんな話があるというだけだ」
警官が頭を下げた。
同時に窓をノックして、別の警官が姿を現した。
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