637人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんなんじゃ…」
美郷もはっきり見たわけではない。
『見た』と断言はできない。
しかし、一瞬見えた『あれ』は人の顔のように思えた。
それが、光に驚き、茂みの中に隠れたように見えた。
「パトカーが待ってるぞ。早く車出せ」
「う…うん…」
美郷はゆっくりとアクセルを踏んだ。
ダムに沿った道を、パトカーの先導で走っていく。
美郷の後ろにもパトカーが付いていた。
「これで一安心だな。誰かさんのせいで、とんだ寄り道をしたもんだ」
「私のせいじゃないもん」
「お前が高速降りたからだろ」
「しょうがないでしょ。お兄ちゃんが無職なんだから」
「…それは関係ないだろ」
パトカーのウインカーが煌めき、側道に入ることを指し示していた。
「ほら、曲がるぞ」
「分かってるわよ」
美郷も後に続く。
車は再び、舗装されていない悪路を走ることになった。
「またかよ…」
小太郎が心底嫌そうな顔をする。
「文句ばっかり言わないの、無職のくせに」
「お前…やけに突っ掛かってくるな。そんなに俺が嫌いか?」
最初のコメントを投稿しよう!