637人が本棚に入れています
本棚に追加
パトカーを押し込み、何とか車が一台通れるだけのスペースを確保できた。
車に乗り込んだ小太郎を、不安げな美郷が迎える。
「何があったの?」
「警官が消えた。もしかしたらトイレにでも行ってるのかもしれないが…」
「長くない?」
「紙がないのかもしれないな」
小太郎は、タイヤの裂け目の事には触れなかった。
「後ろのパトカーは残るらしいよ。道を聞いてきたから、大丈夫だろ」
「う…うん…」
美郷は兄の言葉に頷いた。
しかし、兄が『何か』を隠しているのは感じ取っていた。
「道なりに進めばいい。簡単だろ?」
美郷は静かにアクセルを踏み込んだ。
残った警官が敬礼をして見送る。
「大丈夫かな、あの人」
「警官だろ? 訓練もしてるだろうし、拳銃も持ってる。熊が出ても大丈夫さ」
小太郎が笑ってみせた。
「そんなの気にしてないで前を見てろよ。パンクなんてシャレにならんからな」
小太郎はそう言ったが、あのタイヤを考えると、注意など無意味なように思えた。
最初のコメントを投稿しよう!