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相変わらずの悪路。
車は縦に横に揺れ、小太郎はまた軽い車酔いに襲われた。
結構な距離を走ったはずだが、まだ門を通過しない。
「門なんてないよ…」
美郷も不安に思ったのか、怯えた声を出した。
「まだ先かもしれない」
「だって、もう随分走ったよ? いくら何でもおかしいよ」
「じゃあ引き返すか? それだと一生出られないぞ?」
「でも…」
小太郎の言っていることは美郷にも理解できた。
今まで分岐するような場所はなかった。
迷うはずがないのだ。
しかし、拭いようのない不安があった。
「今は進むしかないんだ。もう少ししたら門があるかもしれない」
「うん、そうだね…」
美郷のアクセルを踏む足に力が入る。
「慌てなくていい! 慎重に、車を揺らさずにな」
「そんなの無理に決まってるでしょ。これだから無職は困るわ」
「…お前な。次『無職』って言ったら兄弟の縁を切るからな」
「それは大歓迎」
「………」
小太郎は返す言葉もなく、大きな溜め息をついた。
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