疫病神と呼ばないで

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  「迷ったんじゃないのかぁ?」 揺れる車の中。 不機嫌極まりない様子で、六本木小太郎は運転席に座る妹を見た。 妹は兄を見ようともしない。 完全に無視を決め込んでいるようだった。 車は、山中の曲がりくねった道を延々と走行していた。 広かった道幅は次第に狭くなり、路面の状況も悪くなっていった。 今では離合もできないような幅で、路面は舗装すらされていない。 「そもそもなぁ、高速降りたのが失敗だったんだよ。渋滞ぐらいでへこたれて、どうすんだ」 妹は答えない。 「そんなんだから彼氏もできないんだよ。俺は兄貴として、お前の将来が心配だ」 妹が勢いよくブレーキを踏んだ。 兄を睨み付ける。 その迫力に、小太郎は思わず口をつぐんだ。 「兄貴として…? 私の将来が心配…?」 「な…何だよ? 美郷」 美郷と呼ばれた妹は、小太郎を見据えた。 「…私は人間として、お兄ちゃんの将来が心配だわ」 「おま…兄貴に向かって何てこと言うんだ!?」 「悔しかったら仕事しなさいよ! 無職でニートでプー太郎で恥ずかしくないの?」 「ぜ…全部同じ意味だろ」
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