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美郷はアクセルを踏んだ。
日が暮れる前に、最低でもアスファルトの道に出ておきたかった。
悪路の上りと下りを繰り返し、小太郎が軽い車酔いを感じ始めた時、車の振動がなくなった。
「やった! アスファルトの道に出たよ、お兄ちゃん」
「…そ、そうか。悪い、ちょっと止めてくれ…」
青白い顔をして、小太郎は弱々しく呟いた。
美郷は車を脇に止めた。
「大丈夫?」
「…あぁ、ちょっと一服してくる…」
小太郎は煙草に火を付けると、車の外に出た。
西の空は既に暗い。
車酔いも落ち着き、冷静になってくると、周囲の状況もよく見えはじめた。
アスファルトの道は、大きな湖を囲むように走っていた。
幾つかの街灯らしき明かりが目に付く。
湖の対岸に、不自然に揺らめく明かりを見つけた。
赤い光だ。
「あれは…」
その光が、パトカーのパトライトだと気付いて、小太郎は車に戻った。
「ねぇ、どっちに行く?」
「向こうにパトカーがいるみたいだ。とりあえず、そこまで行って道を尋ねよう」
「何かあったのかな?」
「さぁな。何にしても今は好都合だ」
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