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小太郎も、そんな門に心当たりはなかった。
「門はあったかもしれないけどな、封鎖はされてなかったよ。俺達がここにいるのが、何よりの証拠だろ」
小太郎の言葉に、警官は微妙な表情を見せた。
「とにかく、不審者には変わりがない。悪いけど、車から降りて幾つかの質問に答えてもらえるか?」
小太郎と美郷は顔を見合わせると、渋々、車のエンジンを止めた。
警官に促され、パトカーへと乗り込む。
パトカーの車体には『埼玉県警』と書かれていた。
しかし、別のパトカーには『群馬県警』と書かれている。
「ここは埼玉?」
小太郎の質問に、警官が曖昧な返事をした。
「…一応な」
「一応って…何それ?」
「県境が曖昧なんだよ」
佐土原ダムができる前、この地には佐土原村という小さな村があった。
今ではダムの底に沈んでいるが、その村は埼玉県だった。
しかし、ダムの建設に伴い区画整理が行われた。
ダムの建設に多額の資金を提供したのが群馬県だった。
そして、ダムの水源となる川も群馬県だった。
その結果、ダムは群馬県、ダムを囲む道は埼玉県という不可解な現実が生まれた。
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