疫病神と呼ばないで

8/32
前へ
/216ページ
次へ
  「で…何が起きたんです?」 美郷が物々しい雰囲気を感じて、口を開いた。 「ああ…殺人事件だよ」 お上の事情はともかく、その下で働く者達にとっては厄介な出来事が起きた。 佐土原ダムの岸辺で、殺人と思われる死体が発見されたのだ。 問題となるのが管轄となる警察で、土地の持つ曖昧さが、二つの県警の鉢合わせを生んだのだった。 「死体が上がったのが、群馬県か埼玉県かで上が揉めててな。おかげで鑑識もまだ来やしない。俺達は現場を封鎖して、指示を待ってるんだよ」 「そうですか…大変ですね」 美郷は警官達の苦労を察したが、小太郎は舌打ちをした。 「とんだ現場に出くわしたもんだ」 「ちょっと、お兄ちゃん!」 「いや、いいんだ。あんた達には申し訳ないと思う。悪いが協力してくれないか?」 警官の態度に、小太郎は言い過ぎたと感じ、口をつぐんだ。 「名前と住所、電話番号を教えてくれ。あと勤務先も」 『勤務先』という言葉が出て、小太郎は肩を落とした。
/216ページ

最初のコメントを投稿しよう!

637人が本棚に入れています
本棚に追加