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「六本木太郎…無職…と」
警官が手帳に書いていく。
「太郎じゃない、小太郎だ。それに、それじゃ六本本だろ」
手帳を覗き込んだ小太郎が、呆れたように口を開いた。
美郷は、そんなやり取りの間、道の脇にある石碑が気になり、眺めていた。
『殉職者慰霊碑』
ダム建設に伴う事故だろうか?
薄闇にそびえ立つ、その姿はやけに不気味に思えた。
寒気を覚えた美郷は、たまらずに視線を反らした。
「ここから一番近い国道は、どう行けばいい?」
小太郎が警官に尋ねている。
「パトカーを一台、先導させよう。後ろをついていくといい」
「助かるよ。良かったな、美郷。何とか帰れそうだぞ」
「う…うん…」
美郷は嫌な予感がしていた。
気のせいかもしれない。
慰霊碑を見たせいかもしれない。
そう自分自身を納得させていたのだが、どんなに頑張っても、それを拭い去ることができなかった。
「あ…あの…犯人が近くに潜んでる可能性はありますか?」
美郷の質問に、警官の目が丸くなる。
そして、何かに気付いた様子で笑みを浮かべた。
「可能性はゼロではないね。もしかしたら、そこらへんの茂みに潜んでいるかもしれない」
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