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コトリとお猪口を置く音が静かな部屋に響く。今日も無口なあの人・・・・・私、嫌われて居るのだろうか。だとしたら私、嫌われるようなことをしてしまったのだろうか。それとも私が他の女中さんみたいに綺麗でも可愛くもないからだろうか。私の名を大声で呼んだと思えばその次には「酒。」そのたった一言。他の女中さんには「悪ぃが酒持ってきてくれ。」なんて労りの声を掛けるくせに。どうして私にはこんなにも冷たいのだろうか。
「ぁ・・・あの」
勇気を振り絞り声を掛けてみると彼の目が一瞬チラリとこちらを見る。あぁ恐怖。いつだって彼の眼には光が宿っていて。その眼には揺らぐことの無い希望に満ちていて彼はいつも一歩先を見ていた。この眼に私は溺れたのだ。本当はそれが羨ましかったのかもしれない。本当はそれに憧れていたのかもしれない。恋と呼ぶには遠い物かもしれない。けれどやっぱりその眼を私は欲していた。全てを見透かしてしまいそうな彼。全てを見透かされるなんて本当は凄く怖いけどそんな心配なんて要らなかった。彼の視線はいつも私を映してはいなかった。少しでも私は彼の頭の中に居たくて態と馬鹿な質問をした。告白でもすればいつか少しは思い出してくれるときが来るかもなんて淡い期待を抱きながら。
「・・・副長は、私のコト嫌いですか」
キライと言われればそれまで。だけどどうせ玉砕するんだ、この想いが大きくならないうちに彼に打ち明けてしまおう。後悔など何も無い。だが彼の無言の威圧が身体中にひしひしと伝わってくる。痛い。自惚れんな、とでも言いたげ。やはり特別美人でも特別可愛い訳でもない私がこんなことを聞くのは野暮な話だっただろうか。でももうここまで来たんだ。後戻りはできない。どうせならこの恋早くおさらばしてしまおう。
「私・・・・・・副長が好きです」
サヨナラ、私の恋。
(わかりきった答えでも、求めてしまう私は愚かなのだろうか。)
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