時の過ぎゆくままに

13/35
前へ
/35ページ
次へ
「え、ええ、知っているわ。ハンフリー・ボガードとイングリット・バーグマンの・・」 女は困惑しながらも答える。 「そうそう、その名画に登場したカクテルが、シャンパンカクテルなんだ」 「え・・そうだったかしら・・」 女は眉間にしわを寄せ、記憶を辿るようにして考え込んだ。 「ほら、ボガードの名台詞」 「あ!思い出したわ。確か・・」 「そう」 「君の瞳に乾杯!」 二人は声を揃えてその名台詞を口にすると、声を大にして笑い飛ばした。 「お待たせしました、シャンパンカクテルです」 ホールスタッフが話しに割って入り、二人を戒めるかのように黙々とグラスを二人の前に置いた。 二人は目を合わせ、戯けた顔をして肩をすぼめる。 「では、失礼致します、ごゆっくりと」 ホールスタッフは皮肉ともとれる表情で、微笑みながら軽く一礼をすると、その場を去っていった。 「はは、少しはしゃぎすぎたね」 男は苦笑を浮かべてそう言った。 「仕方ないわ、だって楽しいんだもの」 女は開き直った様子で微笑んでいる。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加