時の過ぎゆくままに

14/35
前へ
/35ページ
次へ
「はは、そうだね、仕方ないね、それより冷えているうちに頂こうか」 男は話を切り替えして、花模様のエッチングが施されたソーサー型シャンパングラスの華奢な脚をつまみ上げ、女に向けた。 「そうね、頂きましょう、じゃあ、何に乾杯?」 女は同じ様にしてグラスをつまみ、男に問いかけた。 「君の瞳に・・・」 男が笑いを堪えながら、冗談混じりにそう言うと、 「ぷ・・・」 女は肩を震わせながら声を出さずに笑い、堪らず吹き出した。 「はは、うそうそ、新しい出会いにって事でどう?」 「そうね、じゃあ、新しい出会いに」 二人は笑いも止まぬまま話をまとめると、グラスを少し上げ、そのまま気味よく傾けた。 シャンパンの炭酸が心地よく唇と舌を刺激する、酸味の中に仄かに感じる角砂糖の甘みと、ビターズのほろ苦さ。 レモンピールの香りがシャンパンの香りと相俟って、ノーブルな芳香に仕上がり、飲み手側の心をくすぐる。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加