時の過ぎゆくままに

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「そうだ、折角のシャンパンカクテルだし、曲も合わせてみようか」 男は笑顔を見せて女にそう言うと、ホールスタッフを呼び出し、リクエストをした。 ホールスタッフは大きく頷くと、承知した様子でその場を後にする。 女はいきさつを目で追うばかりで、状況を把握する事が出来ずにいた。 やがてホールスタッフにリクエストを伝えられたジャズバンドの面々は、こちらを見て微笑み、軽く一礼をすると、曲の演奏を始めた。 スイングジャズによる生演奏、主旋律であるピアノがラウンジ内に響き渡る。 しっとりとして、何処か懐かしさを感じさせるようなピアノの調べ。 “As Time Goes By” 「あ・・この曲・・」 女は気付いた様子で耳を傾けた。 「うん、カサブランカといえばこの曲でしょ」 「ええ、憶えているわ。ハンフリー・ボガートが経営する Rick's American Cafe に、昔の恋人、イングリッド・バーグマンが訪れて」 「そうそう」 「Sam, Play It Againって」 女は真似た様子で台詞を口にした。
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