時の過ぎゆくままに

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「お待たせ致しました、シャンパンカクテルでございます」 ホールスタッフは微笑みながらシャンパンカクテルを女の前に置くと、空いたグラスを手早く下げた。 「ありがとう」 女が笑顔を見せ、礼を言うと、ホールスタッフは笑顔のまま、軽く一礼をし、その場を後にした。 女はグラスに手を掛け、照明に照らされ、ソーサー型シャンパングラスに黄金色の光を静かに放つシャンパンカクテルを、目を細めて眺めていた。 シャンパンは綺麗に気泡を上げ、ビターズを染み込ませた角砂糖をゆっくりと溶かしてゆく、レモンピールで香り付けをしたのだろう、仄かに柑橘系の香りがする。 ・・男に・・・勧められたカクテル・・ ゴルフコンペのあったあの日・・ 初めてこのソファーに腰を下ろした・・ 花火の約束をした、あの日の夕暮れ・・・ 女はグラスを手に取り、口を湿らす程度にシャンパンカクテルを口に含み、グラスを置くと、窓の外に目を向け、再び数年前の出来事に想いを募らせた。
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