潜入

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天正7年(1579)の五月晴れのこの日、信長は上機嫌だった。 織田信長46才。背は少し高く痩せている。声が少しカン高い。 この日は安土城の天守が完成して本格的に落成する前祝いをしていた。 まだあちこちで工事をしている安土城の天守に登った信長は、京・琵琶湖・岐阜の方面を眺めて満足げに頷いた。 傍らには森蘭丸がいる。 「あと少しじゃな。」 信長が城の事を言っているのか天下統一の事を言っているのかはわからない。 しかし、ここで、 「は?城の事でございますか?」 とは間違っても聞き返してはならない。 そんなことを言ったらたちまち信長に蹴飛ばされるだろう。 こういう時は信長の様子や話の前後から推測しなければならない。 信長の家来は頭が悪いと勤まらない。 蘭丸は、 「御意。」 と、だけ答えた。
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