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久兵衛はあれよあれよと勝ち進んだ。周りの者達も久兵衛に注目しだした。
久兵衛は素早い動きと軽い身のこなしであっさりと勝ってしまう。
時には見たこともないような技を繰り出し、これには信長も大いに喜んだ。
決勝戦、久兵衛の相手は痩せた中年の浪人だった。背は久兵衛より少し高くボサボサの髪で髷を結い、無精ひげを生やしている。
決勝戦が始まっても相手は無表情だった。
対面した久兵衛は対戦相手から発せられた『気』の大きさに呑み込まれそうだった。
(ただ者ではないな。)
久兵衛は背中に嫌な汗をかいた。
決勝戦を前に信長は上機嫌で子供の様に眼を輝かせて試合の始まるのを待っている。
「ドーン!」
と太鼓が鳴る。試合開始だ。
久兵衛は何とか優勝したかったが、とても勝てる気がしない。
(あれをやるか・・・。)
久兵衛はギュッと唇を噛んだ。
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