車輪の唄

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「いこっか。」 そう言うと彼女はまっすぐ改札口に行く、後から僕もついて行った。 駅員さんに切符を見せて改札を通ろうとしたとき彼女の鞄が改札口に引っかかった。 その鞄は「引っ越しに行くようなおっきな鞄なんか無い!」 と、彼女が一昨日くらいにいきなり言い出して僕と一緒に買いに行った鞄だ。 鞄の紐が引っかかった彼女は何も言わず僕をみた。 僕は目を合わせずにうなずいて、引っかかる鞄の紐をゆっくりはずした。 そして誰もいない駅のホームでベンチに座って待った。 そんなに長くは待たないで電車が来た。 大きなベルの音が鳴って電車のドアが開いた。 僕らの最後を告げるベルの音。 そして君は電車のドアの向こう側へ……。 たった一歩なのになんだか何万歩も遠く離れたような気がした…。 そして振り返り君は言う。 「約束だよ。絶対……いつかまた会おうね!」 答えられず……うつむいたまま、僕は手を振った。 電車のドアがゆっくり閉まっていく、そしてゆっくり発車していく。 目頭が熱くなり……ポロポロ涙がこぼれ落ちる。 僕は服の袖で涙を拭いて、僕は走り出した! 改札口を抜けて、駅の入り口も抜けて、僕は自転車にたどり着いた。 スタンドを下ろして、自転車にまたがるとほぼ同時に僕はペダルを漕いだ。 線路沿いの下り坂を風よりも早く飛ばしていく、追いついてくれ! 僕の自転車の車輪は悲鳴を上げてどんどん速度を上げていく。
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