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「ごめん」
また上坂は言った。
そして
「ありがとう」
と続けた。
俺は風の様に流れていきそうな声を確かに聞き取った。
「え?」
そう聞き返すことしかできなかった。
突然、感謝されてまぁ嬉しいと言えば嬉しいが、それよりも何よりも俺の頭の中にはなんで感謝された?という疑問の方が大きかった。
というかそれで支配されていた。
「俺、何もできなかったぜ?上坂に感謝されるようなこと何も……」
「ううん」
上坂は首を振った。
正確には見えないが、首を振った、のだろう。
「いや……でも」
「違うよ、南沢くんは一生懸命、私なんかの為にこんなに尽力してくれてさ、私嬉しかったよ……」
上坂は本当に俺に気を使い過ぎだ、と俺は思った。
「気、使いすぎじゃないか?」
「それは違うって、何度いえばいいの?」
上坂はまた否定した。
呆れたような声だった。
「南沢くん、私正直なところ、この体になった時、もう戻れないじゃないか、もう誰にも救われないんじゃないか、とか思った、絶望してたんだよ」
それはそうだろうな
俺が仮にそんな状況に、周りの景色が大きくなって自分が小さくなってしまった、そんな状況に立ち向かわされたら弱い俺は現実から目を背ける、もし強くても目を背けるんじゃないか。
そんな状況で平穏でいられる人間なんて存在しない。
上坂もそうなんだろう
いくら強いといってもこんな状況に打ち勝つほど強くはないはずだ。
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