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一世界だけを指定した狭いゲートで魔王召喚を実行すると、魔術陣がなかなか景気良くすっ飛ぶのだ。
セイを召喚する半年くらい前だったか、実験と練習がてらに第一世界の魔王、ハウラウンドを指定する内容で魔術陣作ってたら完成を待たずして破裂したことがあった。一週間以上も打ち身に苦しめられたのでよぅく覚えてますとも。
「ともかく」と俺。「見るからに失敗してるな。ただ、犯人が一度で諦めるかまでは確証ないけど」
以上。
自信を持って断言した時こそが転機の時だった。
「――贔屓しても、70点ってところだわ」
栗色髪の女の子が口を開く。
自らが富裕層であることを服装で主張している彼女はドレスのスカート部分の折り目を正し、咄嗟に目を向けてしまった俺へと面を上げると、まるで照れているように唇の端を少し広げた。俺は、どんな顔をしていた。
「あなたの理屈は少し、一般概念に囚われすぎていてよ。王国の魔導院が既に召喚学の全貌を解いたと思っているのかしら? そうでも無い限り、この陣を失敗と決め付けるのは早計ね。あまり心配になるようなこと言わないで頂戴」
頭が頭痛で痛い。
それほどまでに馬鹿げている存在であった。
顔までじゃなく、この妙に偏屈な口調までもが《本人》と酷似しているとは……
ここまで来ると、きっと名前も同じって展開なんだろうな。現実逃避はとっとと諦めよう。
俺の諦観とは他所に、魔王召喚失敗説に対して異を唱え始めた彼女の言葉で、何故か警団の一部が怪訝の色に染まっている。
「あれ、なんかペチャ、さっきと言ってること微妙に違うくね?」
「さっき自分も失敗だって言ってたろう」
「きっと何にでも批判したくなる年頃なんだよ、オレにもあった」
「お黙りなさい」
静謐な声が野次を遮断する。
そして。
彼女は、しんみりと目を伏せて語ったのだった。声は小さくも、はっきりと聞こえた。
「――息子、なのよ。嘘は言いたくないわ」
きっと彼女の名前はパンドラ=シャトラ。
十数年前、王国によって親父と共に惨殺された母親が、当時とまったく変化の無い少女の姿で俺の前に立っている。
初秋の、しかも昼間っから幽霊だった。
良い子の魔王と一体どっちがビックリかなー。
【第一話終了】
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