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ハーブティーを嗜(たしな)む男は、その声に反応して入り口へと視線を移した。
そして露(あら)わになっている口元をにこりと歪め、挨拶を交わす。
「や、ウェルデン准尉」
ティーカップを構えたまま、ロンを呼ぶ声にそう返した。
「や。じゃありませんよ小尉。こんな時にこんな所で」
ウェルデン准尉(じゅんい)はそうこぼしながら、二十歳を迎え甘さを残した顔をしかめた。軍帽をしっかりと身に付け、短く刈られた金髪を綺麗にまとめている。
よほどロン小尉に比べれば見目麗(みめうるわ)しい好青年だ。
「大佐殿が出撃だと言っておられましたよ」
小さな溜め息を漏らし、ロン小尉はハーブティーを一口味わうと口を尖(とが)らせながら不平を口にした。
「散々乗ってようやく休めると思ったらもう出撃か……、せめてこいつだけでも味わいたかったな」
「実戦を前にしたパイロットの台詞とは思えませんね」
覇気(はき)のないロンの様子にウェルデンが呆れたように漏らした。
ただ、ここ数日続いていた実機の調節がようやく終わり、こうしてお茶を嗜んでいた所を予定外の遭遇戦(そうぐうせん)で戦地に駆り出される事は、決して有り得ない事ではなかった。
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