旅立ちの日に

5/13
前へ
/374ページ
次へ
すると陸は微笑んで凜の問いに答えた。 「あの桜の木のは、近くの公園にあるんだ。 その桜の木の下で僕が絵を描いていた時、彼女は隣にいてくれたんだ」 「彼女って、志堂さん?」 陸は頷いて肯定した。 「あの桜の木は今は花を咲かせないんだ。 僕はそれが今の僕に似てるって思った。 だから満開の花を咲かせたんだ。 この気持ちが届きますように、ってね」 「なるほど……。あの花が陸の気持ちその物だったんだ……」 凜が感心したように呟くと、陸はニッコリ笑って頷いた。 「俺も、いつか陸の桜に負けないくらいの海を描きたいな……」 凜がそう呟くと、陸は優しく目を細めて言った。 「僕は凜くんなら今すぐにでも描けると思うよ」 しかし、凜は陸の優しい言葉に頷くことが出来なかった。
/374ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2831人が本棚に入れています
本棚に追加