過去の海、今の海

7/7
前へ
/374ページ
次へ
凛は戸惑いながら美月を抱くと、美月は嬉しそうに笑った。 そんな美月の頭を撫でてさやかは優しく笑った。 「わたしも凛も、『過去のために今を生きてる』んだよ。そして、白河くんは美月と一緒。『未来のために今を生きてる』の」 さやかの言葉に凛は呆然とした。 そんな凛を見て、さやかは少し悲しそうに笑った。 「わたしは、誰かを好きになれば隆志が消えてしまいそうで怖い。 凛は、海の絵を完成させたら何も描くものがなくなるから怖い。 そう思っているから、今も、未来も見えなくなっているんだと思う」 さやかの言葉を聞いて、そして腕の中で笑う美月を見て、凛は涙をこぼした。 「……俺たちは……弱いね」 さやかは指でそっと凛の涙を拭ってニッコリ笑った。 「それがわかっただけでも、白河くんに感謝しないといけないね」 凛はその言葉に頷いた。 そして、憂いのこもった笑顔で言った。 「俺は、今の、そして未来の俺が描きたいものをさがしてみるよ」 さやかはニッコリ笑って頷いた。 「わたしも、未来の幸せの形を探してみる」 そう言って2人は愛おしそうに美月を見た。 美月はキャッキャッと笑いながら その小さな手を、 目の前にある海に向かって 一生懸命のばしていた。
/374ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2831人が本棚に入れています
本棚に追加