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和服の男は黒髪を揺らした。
桜の香りがした。
ような、気がする。
「というわけでこれからよろしく」
「は?」
「まあ部屋も狭くないし大丈夫大丈夫」
「まてこらなにがだ」
男の頭を鷲掴みにして、ぐらぐらと揺らした。
あばば、だの、
ぐぶぶ、だの。
よくわからないうめき声が聞こえる。
どこか満足げな少女は、
もう一度和傘を叩き落としてから男を睨みつける。
「あんたは何。言わなきゃ殺す」
「女性とは思えない口の悪さ」
「死にたいか」
「生きたいなあ」
ならば、答えろ。
ささる少女の視線を、
和傘をまた拾うことで避けた。
和傘をくるりとまわす。
男はどうやら笑っているらしい。
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