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◇ ◆ ◇
路地裏で襲われる日の朝の事。
翔は自分が通う高校への道を辿っていた。
すでに二ヶ月も通いつめている高校には大分慣れ、友達も何人か仲のいい奴ができ始めて学校に行くのは楽しいと感じていた。
翔が通っているのは、地元でも普通というイメージしかわかないような中堅高校だ。
創立二十年程の比較的新しく、校則も緩いため人気は高い。
全校生徒は約千二百人。
建物がグラウンドを囲う形で建てられている。
特に行きたい高校もなかったから選んだ高校だった。
何も入っていない鞄を気だるくなった右手から左手に持ち替え、何気なく歩いているうちに周囲に学校の生徒が目立ち始める。
そんなに時間が経ったように感じなかったが気づけば、いつの間にか学校の近くまで来ていたようだ。
「おいーす」
周りの雑音に紛れて聞こえてきた声は、三連ピアスに制服も着乱した格好で現れたクラスメイトの佐藤大地のものだった。
大地は昨晩降った雨でできた水溜りを気にもせず駆け寄ってくる。
幸い今日は曇りで雨は降ってはいない。
「よう」
片手を挙げて返事をしながらも歩く足は止めない。
大地は追いついて横に並ぶと、親しげに肩に手を置き訊ねた。
「翔、聞いたか?」
「ん、何を?」
ニヤニヤしながら見てくるが、翔には何のことかわからなかった。
「いや、実はな。俺のつかんだ情報で今日は転校生が来るって話を耳にしたんでね」
「こんな時期に? 随分おかしくないか? まだ六月だぜ」
例を挙げるなら親の仕事の都合などがあるが、それも勝手な推察に過ぎず、無駄な労力だと考えて翔は続ける。
「だったら最初からうちの学校に入ってればいいのにな」
「まぁそうだよな」
そうする理由があるというだけの話なのだろう。
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