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「やっと着いたわね」
彼女の立っている場所は、人里離れた周囲が山に囲まれているだけの大きな建物の屋上だった。
薄く吹いた風が女の髪を撫で、隠れていた顔が露わになる。
現れた色は蒼。
微かな光源によって浮かび出されたその色は、彼女の綺麗な顔を彩るパーツの一つであった。
その二つの蒼を、彼女はヘリの方へと向ける。
彼女を送ってきたばかりのヘリは轟音を上げて飛び立ち、彼女を一人残してアメリカへと戻っていった。
「……」
彼女の周囲には人の気配もなく、時の流れさえ遅れてしまうのではないかという静けさ。
だが、その静寂を破るような物が彼女に迫ってきていたのだ……。
「……っ!」
彼女はそれに気がつくとその場から後ろへと跳躍し、音も立てずに着地した。
膝をつく形で自分の居た場所に目を向ける。
先程まで彼女が居た場所の地面には、数本のナイフが刺さっていた。
そして、彼女が誰の仕業かと考える間もなく、それは襲い掛かってきた。
誰もいなかったはずの場所に突如現れた小さな影。
その影が、彼女に向けて下から拳を繰り出した。
驚異的な速度で近づいてきたその影は、常人ならば知覚できる速さではない。
そう常人ならば……。
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